命にふさわしい

1998年生まれの随筆とエッセイ

冬の雨は冷たいんだよなぁ

元テレビ戦士の伊藤元太くんが亡くなっていた。

 

一人の男子大学生が東京の川で溺れて行方不明になっているというニュースは、全国ネットの報道番組で観て知っていた。

 

だけど、まさか彼だとは思いもしなかった。

 

元太くんのTwitterを見つけたのは去年の春だったように思う。

 

京都で一人暮らしを始めた頃、そういえば、あのころ自分と同世代だったテレビ戦士の子供たちは今どうしているのか。

 

ふと気になり、Twitterで覚えている名前を検索したのがきっかけだった。案外本名の漢字もちゃんと覚えているもので、複数のテレビ戦士たちのアカウントはすぐに見つかった。聖夜やりょうきの画像を見てとても懐かしい気分に浸っていたとき、おすすめユーザーからだっただろうか。元太を見つけた。

 

小学生の頃、彼らはテレビの中の遠い存在であり、いつも身近に感じる友達のような存在だった。だからアカウントを見つけた時も、あの頃と同じように「あ、元太だ。」と呼び捨てで呟いていた。

 

Twitterの中の彼も、フォロワー数だけみてもやはり雲の上の存在のように感じたし、キラキラしたツイートを読んで「やっぱり、選ばれた人間は違うなぁ。」なんて考えていた。

 

だけど彼が一般入試で早稲田大学に合格して入学したことや、偏差値の高い私立の進学校に通いながら塾にも通っていたこと、本名とは全く別の名前でアカウントを使ってリアルな友達とやりとりしていて、ちゃんと普通の高校生活を送っていたことなどを知って衝撃を受けた。

 

「あぁ。元太くんは、クラスが同じだったら自然に話をする関係になっていたであろう、いい意味で普通の、ごく普通の同い年の男の子だったんだ。」

 

そう気づいたときからは、彼の事は元太くんと呼ぶようになった。自分の中の彼を見る目が変わったんだと思う。テレビ戦士の伊藤元太としてではなく、一人の人間の伊藤元太として、勉強して希望の大学に合格して一つの目標を達成して、今度は自らコンテストに応募して掴み取った芸能事務所からのスカウトという切符で、芸能界に復帰して大学に通いながら働くという目標に向かっていこうとしている。

 

そんな、自分で道を切り開いていく彼のスタンスに、自分は感銘を受けた。ただただ純粋に、かっこいいと思ったのだ。それは憧れや恋にも似た淡い期待だった。

 

「彼はきっと芸能界でも人気が出る、だからいつか彼に会えるように、自分も創る側の人間になる夢を叶えよう。そして、彼に主人公を演じて貰うんだ。」

 

そういう願望も持つようになった。尚且つ白雪のような恋心も持ち得て、時折彼に恋い焦がれることもあった。いつか会ったらこの恋も成り立つだろうか。そんな風なことも考えていた。

 

だけど、いつかは来なかった。

 

好きな人が、期待していた人が、幼いころの友達のような人が、死んでしまうことがこんなにも辛くて悲しいことだなんて、自分は初めて知った。この感覚はうまく言葉にできない。毎日沢山の人が死んでいるのに今頃になって初めて嘗めた味だった。

 

明日は我が身だなんて言うつもりはない。ただ、この先歳をとるにつれて、元太くんが亡くなっていた知らせを聞いたときと同じ、辛苦や悲しみや言葉に出来ない感覚を味わう経験をしていかなくてはならないことへの計り知れない程の絶望的観測、恐怖心に押し潰されそうになっている自分がいる。

 

いつかなんて無いのだ。自分も、他人も、今日死ぬかもしれない。これが紛れもない事実であることを痛感した。この味に、慣れてしまいたくはないと思う。

 

そして、元太くんには上記の文章を語るような際のコンテンツには絶対になってほしくはないとも思う。「いつ僕も私もあなたも元太くんみたいになるかわからないから、毎日後悔しないように生きよう。」などと自分や他人に喝を入れる材料として、元太くんの名前を使って欲しくない。

 

可哀想、後悔してるだろうな、不幸だ、などのコメントを数え切れないほど見かけた。

 

だけど、終わりが不幸なら、彼の今までの18年3カ月5日の人生の全てが不幸になるのか。

 

自分はそうは思わない。

 

勝手に彼を可哀想な存在にしないでほしい。

 

彼の名前と不幸とを結び付けたりしないでほしい。

 

伊藤元太にあった未来の可能性を嘆かずに、彼が刻んだ一瞬一瞬の軌跡と努力を積み重ねて生き抜いたその功績を讃えてほしい。

 

元太くんの生き様はかっこよかった。

 

元太くんの人生はかっこよかった。

 

元太くんは幸せに生きた。

 

 

そう思っていたいと思う、だからこれからもそんな彼に憧れ、淡い恋心を持ちながら、もう少しだけここにいさせてほしい。

 

 

 

 

 

 

今日は雨が降っていたよ。